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天下一品西院店


「屋台の再定義」

屋台の発祥は江戸時代。明暦の大火により江戸は荒廃し以降労働者が流入して外食の需要が高まっていた。それに伴い「店にて売り」と呼ばれる店舗販売が流行したが、大半は「担い売り」と呼ばれる路上営業でそれが屋台であった。屋台は、寺社の門前や大店の立ち並ぶ通りといった人の集まりやすい場所に出現し、広小路や火除地には「床店」と呼ばれる移動可能な店舗や屋台が密集し賑わっていた。移動式の屋台ではラーメン屋も商われており、チャルメラを鳴らしながら夜の街を流す。こうした移動販売は店舗固定の飲食店と比較して低投資で取得が可能で、客が多い日時にだけその場所に出店できるため、個人の起業スタイルの一つともなっている。しかし1964年の東京オリンピックを機に、非衛生的な屋台の一斉排除が行われ、法律による規制がかかり、屋台は街から姿を消していった。そして現在、この系譜の中でこの屋台について再考できないだろうか。屋内ではなく屋外で換気の行き届いた場における飲食スペース。今後の飲食形態の一つの可能性として提案したい。

躯体に埋蔵された屋台は屋根が浮遊する。2階床の躯体から吊られた天井は高さを自由に変化させられ、さらに視線高さの1.5m付近の抜けを作ることで奥行きが生まれる。さらに屋根の向きをカウンターに添わせて揃えることにより、さらに奥行きを感じさせ、その奥にアイストップとなる看板を設ける。うなぎの寝床が多い京都における、躯体を用いた新たな屋台の創出である。

また、通常の店のつくりであると、ビルの外壁を境に内部と外部が分かれているが、今回は1階テナントということもあり、道路との境界を極力曖昧にし、道路と一連の繋がりのある敷地内を「側-がわ」として設け、その中に屋台と呼ばれる内部の場所をつくる。つまり、躯体の中に屋台部分がはめ込まれている構成となる。この在り方でしかできないような屋台を模索する。また躯体があるため屋根を床から支えずに天井から吊るすことで、アイレベルの視界をオープンにできる。

天下一品西院店

Architect : Hirai Ryosuke
Client : 天一食品商事株式会社
Built : April,2021
Location : Kyoto
Web : 天下一品西院店
Photographer : Yasugi Kazuoki

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