「時代の契機としての建築」
奈良の進学校として急速な成長を続ける西大和学園。開校38 年目にした今もなお学生数も教員数も増加しており、職員室の拡張と教室の増室が求められた。この建築には2つの大事なテーマがある。
1つ目は「愛着」。これまで私は世界で様々な宗教や文化の人々に会い、建築を建築たらしめる要素として最も大事なものは「人」だと確信しています。そのため、この校舎を造り上げていく過程において、この建築を最も使う生徒に「愛着」が湧くよう共に建築をつくるプロセスを試みました。
2つ目は「遊び」。ホイジンガがホモ・ルーデンスという言葉を造ったように、遊びは文化に先行していて、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれている。つまり、遊びこそが人間活動の本質にある。現在、情報化社会の発展、WEB3.0 の浸透によりスマホ一つ であらゆる情報に最短でアクセスできる世の中となり、建築の分野でも同様、メンテナンスがほとんど不要な仕上や経年変化が少ない素材など、最小限の手間で維持できるような建築が増えてきている。技術革新はもちろんメリットも多いが、その反動で物事にかける余計な時間=「遊び」が失われている。木造という構造の選択もRC 造としなかったため外装のメンテナンスは手間がかかり、仕上げたヒノキ材は沿ったりもする。しかしその直す手間をかけることで、例えば外壁の吉野檜の香りや色の変化が見られたり、そんな「遊び」こそが人の経験をより豊かにし、人の感性の練度を上げていく。便利な世の中になっている今だからこそ「遊び」を大事にし「愛着」が湧く建築が時代の転換期にふさわしいと考えた。
普通教室は木造の構造を強調させるために柱と梁は木を表した意匠に。構造及び化粧材で木材を多く利用することでSDGsやカーボンストックに配慮した。JAS 構造材実証支援事業助成金も獲得し、エコロジカルな建築となっている。
この敷地の周囲は既存樹木が多くあり、共用部の開口はその緑を屋内空間へ取り込めるように床の位置からガラス貼りの計画とした。まさに奈良においては生駒山を借景とした慈光院を想起させる構成となっている。
RC 造の既存校舎に対して斜めに木造の増築校舎を配置し接続させることによって、増築校舎はまるで楔(くさび)のように立ち現れ、まさに時代の転換の「契機」にふさわしい象徴的建築となる。
東西方向はほとんど全面開口となるため、南北の耐力壁によるひねり剛性に加えて、上階の柱は柱頭に筋交いを設け、その中に柱をのみ込ませることで、偏心率を抑えて固定度を増す設計としている。
進路指導室の左官壁と階数表示のデザインを生徒が行う。左官は奈良県産大和漆喰、階数表示は施工過程で出た端材を利用。生徒にもどこでどの部材が使われたか説明し、より建築に愛着を湧かせた。
基本設計時の模型
Architect : Hirai Ryosuke Nagata Yuichiro
Co-Architect : Yukawa Kohei (ユカワデザインラボ)
Client : 学校法人西大和学園
Built : 2024
Location : Nara
Web : https://www.nishiyamato.ed.jp/